落語で3回目の予選を突破した私は色々思案をめぐらしていました。テレビの本番までにネタを仕上げておきたかったのです。予選のままでは芸がありません。そもそも『七度狐』は上方落語の東の旅で大阪から伊勢参りまでの道中の噺の一つ、一部であり、3分のテレビ出演でクライマックスの笑いまでには時間が足りません。そこで『七度狐』の前段の『煮売り屋』を稽古することにしました。この噺は会話の中に笑いが多く、3分の持ち時間にはピッタリと判断したからです。ちょうど桂 南光師匠のビデオがあったので、その中でギャグがある会話の部分を最初にもってくることにしました。自分なりに3分間の噺にまとめ、何度も練習しました。それをビデオに録って、福団冶師匠にも見てもらいました。そうすると、私の癖が判明したのです。それは落語では右、左と向いて登場人物の会話を表現しますが、その癖とは上(かみ)下(しも)どちらを向いてしゃべる時も顔をが上を向いてしまうというもので前座、新人の噺家にはよく見られる欠点だと指摘されました。そして、近くと遠くを見る時の視線の位置を特に注意されました。我流の悲しさか、今まで全く気付いていなっかったのです。師匠のアドバイスは本当にありがたかった。テレビ収録の1週間前の土曜午後、どうしても稽古を付けて欲しかったので、夜に京都で仕事があるという師匠に無理にお願いして、難波のホテルで待ち合わせました。ところがホテルの喫茶店は満員で、仕方なくロビーで稽古を付けてもらうことになりました。野郎2人がブツブツと仕草を付けて何やら話をしているのだから、周りの人にはさぞ、異様な光景に見えたに違いありません。1時間あまり稽古を付けてもらったでしょうか。「大丈夫でっしゃろ」の師匠の最後の言葉を心の支えに本番を迎えることになるのです。