大学卒業後、地元の歯科医院で勤めるようになりました。26歳で結婚し、子宝にも恵まれ、平穏な生活を送っていました。記憶は定かではありませんが、30歳の頃、家内と幼い長女と一緒に大阪千日前を歩いていた時、演芸場の「浪速座」の前で足が止まりました。その出演者の看板に懐かしい「川上のぼる」の名前を見つけたのです。その頃、テレビではあまり見かけなくなっておりましたので、「あの腹話術の川上のぼる、まだ活躍していたのか」という驚きとともに「見てみたい」という感情が湧き上がり思わず切符を買っていました。会場に入ると半分くらいの入りでしたが、小さな子供でも舞台が見えるように一番前の席を取りました。何人か芸人さんが出たあと。いよいよ川上のぼるの出番です。内容はハッキリとは覚えていませんが、昔テレビで見た、あの一世を風靡した川上のぼるが目の前で腹話術をやっている感慨というか嬉しさというか、今この場で時間を共有している幸せを感じていました。私の子供は3歳くらいだったと思うのですが、人形がしゃべるのが、よほど面白かったのでしょう。思いっきり手を叩いて、目を輝かせているではありませんか。その姿に気付いた川上師匠は娘に向かって「お嬢ちゃん、応援してくれてありがとう」と人形にしゃべらせてくれました。子供は、またまた拍手、拍手のはしゃぎよう。あっという間のひと時でした。この懐かしい出会いが後々、私を腹話術の世界に引き込むきっかけになっていくのです。